カテゴリ: 科学のこと

とある科学の学会で、その分野の重鎮が主催する学会があった。その学会で、ひとつの事件がおきた。ある若手の研究者が自分の論文を発表するのだが、その論文がその重鎮がこれまでやってきた成果を真っ向から否定するものだったのだ。その若手科学者は、まさにその重鎮の目の前で、その成果をこきおろし、その場に居合わせた多くの科学者たちを凍り付けさせた。

発表が終わると、重鎮の科学者は若手科学者に近寄った。そして、手を差し出してこういったのだという。「なんてお礼をいったらいのだろう!君は、僕がいままでずっと間違っていたということを、たった今、教えてくれた!どうも、ありがとう!」それに居合わせた若き日のリチャードドーキンスは、その姿にとても感動した。そして自分も科学者になろうと決意したのだという。

科学とは、理論と実験で真実を探る、極めて神聖な戦いである。理論を主張する人が、若手だろうが、KYだろうが、実績があろうがなかろうが、ましては国籍や性別や信じる宗教がなんであるかなんて関係ない。それを主張する人の過去に、いかなる不手際があろうが、いかなる美人であろうが、それによる利害関係者が誰だろうが関係ない。理論と実験により、それが真実がなんであるかを明らかにする義務が僕たちにはある。

小保方さんの足を引っ張るのはもうやめにして、彼女には検証可能な形でSTAP細胞を再現してもらおう。その前に彼女を科学から葬り去っていはならない。もし、再現できたとしたら、それは大発見には変わりはない。咎められる不正があり、それに対する罪は償ってもらったとしても、STAP細胞に関する賞賛は惜しむべきではないだろう。

彼女を科学から葬り去って、数十年後にSTAP細胞が再現されたことを想像してほしい。その間に世界に対してできたであろう多くの貢献を踏みにじってしまう。そうだとして、今度罪を咎められるのは、葬り去った人々のほうだろう。

もし、小保方氏を研究者として葬りさりたいのなら、再現ができないことがわかったり、検証可能なプロセスを拒否した後でやればいいのだ。

電話が鳴ったとき、僕はそれを取るべきかどうか躊躇した。電話の音は何かしら僕に訴えてくるような響きがあり、それは僕を不安にさせたからだ。それでも、僕は電話を取った。 この時間にかかってくる電話は決まって大事な用件だったし、どちらにしろ僕がそれを無視し続けるは不可能だった。

「もしもし。プーチンです。」
「オバマです。」
僕が電話に出ると、彼は手短に自分を名乗った。彼とは今までも何回も話しているので、声のトーンから彼の心情を推し量ることができる。彼は明らかに苛立っていた。

「クリミアの件で最後の忠告をしたい。要件はいたって簡単だ。クリミアから今すぐ手を引いて欲しい。これは単なるお願いではなく、要求だと受け取って欲しい。要求が受け入れなければ、君は永遠にG8に参加できなくなる。君にとっては、とても不利益なことになると思う。」

僕は黙って続きを待った。

「ただこちらとしても、君のために手を尽くそうと思う。君がここで確約すれば、君のプライドが傷つかないよう協力するつもりだ。マスコミへの時間稼ぎについても安心して欲しい。これはこちらが出す最大限の譲歩だ。君にとっても悪くない話だと思う。」 

やれやれ。僕はやはり電話をとるべきではなかったのだ。

「何度も言ってますが、僕はクリミアを手放すつもりはありません。クリミアがそれを望んでいることをあなたもご存知のはずです。」

「君の言い分はわからんでもない。だが、君はウクライナにおける正当な手続きを経ていない。もっとはっきりと言うと国際法に違反している。」

「わかりませんね。僕らは選挙という民主的な手続きを踏んでいます。それに前職の大統領が職を追われた時には西側の人々は誰もその正当性に関して疑問をなげかけていません。しかし、今回は手続きを盾に取ろうとしている。一体、なぜでしょう。」

「君も知っているとおり、前職の大統領にはいろいろと問題があった。」

「もちろん、知っています。そのことに関しては問題なしとは言えないでしょう。ただし、まがりなりにも選挙という正当な手続きを経て選ばれた大統領です。彼が不正を犯したとしても、職を奪われるとしたら同様に正当な手続きを経る必要があります。しかし、彼が国民から強引に職を奪われたとき、あなたたちはそれを黙認した。」

「君はどうやら自分の立場を誤解している。正確に言うと、過大評価している。今、君は我々から提案を受けた。それに対して君がどう答えるかによって君が立ち位置がかわる。それだけの話だ。君が何を主張しようと、世論は君のやり方を支持していない。」

「いかいもあなたらしい権力者のいい分ですね。あなたはたしかに力を持っている。本気で戦争をしたら、おそらく僕が負けるでしょう。経済制裁をやりあっても、損をするのは僕らのほうが大きいかもしれません。でも、だからといってクリミアを見捨てるわけにはいかないんです。損得勘定で僕を誘導しようとしても無駄です。最初に言ったとおり、僕はクリミアを手放すつもりはありません。」

「それに僕はあなたが腹をくくりきれてないこと知っています。あなたは僕を恐れている。とても恐れている。そして、あなたが恐れているように僕はあなたのいいなりにはなりません。僕は他の国の首脳とは違うんです。」

少し沈黙があった。彼が苛立っている証拠だ。

「いずれにせよ君にはまだ選択肢が残っている。いずれまた話すべき時が来るだろう。ひとつだけ忠告しよう。君はまた自らの手で、自分の立場を危うくしている。」

彼はそう言うと一方的に電話を切った。

あるいは彼の言うとおりかも知れない。僕は自分で自分の立場を危うくしていたし、おそらく多くの人がそれを望んでいない。そして僕に残されたカードはもうほとんど残っていなかった。 

僕の友達の女の子にキャリア官僚の娘がいる。彼女はいたって普通のOLで、普段は、自分の親が何をやっているのかをわざわざ友人に話したりしない。僕が彼女の父親が官僚だって知ったのは、会ってからしばらく経ってからのことで、たまたま二人で飲み行った時にふと漏らしたときに聞いたのだった。

その父親は、どちらかというと気弱な仕事人間だったそうだが、彼女は自分の父親のことをとても尊敬していた。父親も自分の娘として、自分のことを深く愛してくれている事を、彼女は感じていたのだという。あるとき仕事のきっかけで、父親の好きな歌手のコンサートチケットをもらったとき、彼女は父親に一緒に行こうとメールした。とても喜んでくれると思ったら、そのメールに対する返信は意外なものだった。

彼女の父親は今までにないほどの長文メールで、彼女に自分はどのような職業でどのような立場であることを説明した。そして、彼女の申し出はとても嬉しいが、自分は官僚であり、それは受けること法に抵触する恐れがあるので、受けることはできないと伝えた。父親はそのことを侘びながらも、毅然としてその申し出を断ったのだ。

彼女は、その返信にとても感動した。そして、よりいっそう自分の父親を尊敬した。彼女は愛する娘の申し出を断らなくてはならない胸中をさっしたのだった。

民主党に政権がかわったときに、官僚の天下りを全面的に禁止しようとする動きになった。その影響は彼女の父親にも影響した。彼女の父親は転職先をほぼ決めていた(官僚の風習で同期が事務次官候補になったら、退職しなければならない。)。それは官僚時代よりもずっと給料はさがるようなところだったという。エリートにもかかわらず拘束時間のながく同級生よりも薄給な国家公務員に比べてもなお給料が下がる予定だったそうだ。

しかしながら、ちょっとした政治家の気まぐれで父親の転職が危うくなったそうだ。彼女は憤怒した。あれほど、国のために働いた人間をこんなふうに扱うとはどういうことなんだろうと。決して、利権を利用しようとか、そういうわけではない、一生懸命働いた人が次の職場を探そうとしているのを、なぜ邪魔しようとするのだと。だから、彼女は民主党を憎んだ。

僕はそれを聞いて恥ずかしくなった。実は僕も偏見を持っていたし、新聞に書いてあることはふつうに一般的な真実だとおもっていた。でも、その裏には一つ一つの人生があり、ドラマがあったのだ。僕は彼女の父親がハッピーであることを祈っている。そして先入観のみで物事を批判的な目で見るのはやめようと思う。なかなか難しいことではあるが。

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