僕の友達の女の子にキャリア官僚の娘がいる。彼女はいたって普通のOLで、普段は、自分の親が何をやっているのかをわざわざ友人に話したりしない。僕が彼女の父親が官僚だって知ったのは、会ってからしばらく経ってからのことで、たまたま二人で飲み行った時にふと漏らしたときに聞いたのだった。

その父親は、どちらかというと気弱な仕事人間だったそうだが、彼女は自分の父親のことをとても尊敬していた。父親も自分の娘として、自分のことを深く愛してくれている事を、彼女は感じていたのだという。あるとき仕事のきっかけで、父親の好きな歌手のコンサートチケットをもらったとき、彼女は父親に一緒に行こうとメールした。とても喜んでくれると思ったら、そのメールに対する返信は意外なものだった。

彼女の父親は今までにないほどの長文メールで、彼女に自分はどのような職業でどのような立場であることを説明した。そして、彼女の申し出はとても嬉しいが、自分は官僚であり、それは受けること法に抵触する恐れがあるので、受けることはできないと伝えた。父親はそのことを侘びながらも、毅然としてその申し出を断ったのだ。

彼女は、その返信にとても感動した。そして、よりいっそう自分の父親を尊敬した。彼女は愛する娘の申し出を断らなくてはならない胸中をさっしたのだった。

民主党に政権がかわったときに、官僚の天下りを全面的に禁止しようとする動きになった。その影響は彼女の父親にも影響した。彼女の父親は転職先をほぼ決めていた(官僚の風習で同期が事務次官候補になったら、退職しなければならない。)。それは官僚時代よりもずっと給料はさがるようなところだったという。エリートにもかかわらず拘束時間のながく同級生よりも薄給な国家公務員に比べてもなお給料が下がる予定だったそうだ。

しかしながら、ちょっとした政治家の気まぐれで父親の転職が危うくなったそうだ。彼女は憤怒した。あれほど、国のために働いた人間をこんなふうに扱うとはどういうことなんだろうと。決して、利権を利用しようとか、そういうわけではない、一生懸命働いた人が次の職場を探そうとしているのを、なぜ邪魔しようとするのだと。だから、彼女は民主党を憎んだ。

僕はそれを聞いて恥ずかしくなった。実は僕も偏見を持っていたし、新聞に書いてあることはふつうに一般的な真実だとおもっていた。でも、その裏には一つ一つの人生があり、ドラマがあったのだ。僕は彼女の父親がハッピーであることを祈っている。そして先入観のみで物事を批判的な目で見るのはやめようと思う。なかなか難しいことではあるが。